作・演出 田井順子より一言
今年はチェーホフ生誕150年の年にあたり、亡くなってから106年が経ちます。
私は、20歳の時に初めてチェーホフの『桜の園』を読みました。そして、『桜の園』の中の
「ロシア中が庭なんです!」
という言葉が、私とチェーホフを決定的に結び付け、チェーホフの他の作品を読むきっかけになりました。
その夏、演劇部の合宿で夕方のフェリーに乗り小豆島に向った時も、船室でチェーホフの小説『ともしび』
を読んでいました。
その時、衝撃的な事件が起こってしまったのです。同じ船に乗り合わせていた、私と同い年位の女の子が
暗い海に身を投げたのです。私が衝撃を受けたのは、その数分も経たない前、 私はその子のすぐそばを通って
いたのです。少し息抜きをしに甲板に上がり、ギターを弾きながら歌っていた先輩たちに交じって歌を口ずさ
んで、また船室に戻ろうとした時、少し離れた所に、白いワンピースを着た女の子が一人、暗い海をじっと
見つめて立っていたのです・・・・・・。
船室で先輩たちの叫ぶ声を聞き、慌てて甲板に上がった時には、女の子の姿はもうどこにもありませんでした。
それから2時間近く巡視艇が来るまで、私たちのフェリーがサーチライトで暗い海を照らしながら捜索しましたが、
その子を見つけることは出来ませんでした・・・・・。
私にとってチェーホフは、暗い海を進む時、方向を間違えてしまわないようにいつも遠くで灯りをともして
いてくれる灯台のような存在です。悩み多き年頃にチェーホフに出会えたことを、ほんとうに幸福に思います。
と同時に、あの時、死を覚悟するほど思いつめていた人のすぐそばを通りかかりながら、何も感じることのでき
なかった自分に、今でも心が痛みます・・・・・。
田井順子
2010年10月2日(土) 15時/19時
3日(日) 15時
舞台美術
舞台監督
照 明
音 響
宣伝美術
企画制作
OMOTO
中村公彦(イリスパンシブルティ)
平野行俊
細川ひろめ(マナコ プロジェクト)
OMOTO&HONOAYA
パオ カンパニー
チェーホフ
橘 織枝
向井 昌枝
橘 伊理奈