本日は PAO COMPANY 第13回公演「Φ〜菩提樹の下で〜」にご来場いただきありがとうございます。 
今回もまた、本当にたくさんの方々に支えて頂きながら、幕を開けることができました。

 
 幼い時、母から、考える言葉の種をもらった私は、その小さな種を握りしめながら、
ある思いを抱くようになりました。
その思いを抱いたまま二十歳になった時、チェーホフの『桜の園』を読んだのです。
そして、「ロシアじゅうが、われわれの庭なんです!」という言葉に出会った時の感動は、
筆舌に尽くしがたいほどの大きな喜びでした。  私は、
《ずっとこの言葉に出会いたかったんだ!この思いを分かち合える人を探していたんだ!》
と思いました。 そしてその時、この言葉を作品の中に書きこんだ、チェーホフという
作家が、私にとって特別な存在になると予感しました。
そして、その予感は、見事的中したのです。
 ある時、無精者で横着で、出来れば面倒くさいことには手を出したくない性質の私の
すぐ側に、チェーホフが立ったのです。
そして、優しく、静かに、時に厳しく、私に語りかけたのです。
その声は、あたかも実際にそこに、確かに存在しているような、温かい響きでした。
私は、その声に励まされながら、今日まで生きて来たのです。
 しかし、後になってわかったことですが、私の側に立ち現れ、チェーホフが語った言葉は、
不思議なことに、チェーホフが、生涯手元に置いて、ボロボロになるまで愛読したという、
マルクス・アウレリウスの『自省録』の中にある言葉だったのです。
 今回の『Φ〜菩提樹の下で〜』の中で、織枝に語られるチェーホフの言葉は、チェーホフが
私の側に現れ、話した言葉を元に書きました。
そして、その言葉は、今では、私の愛読書でもある、マルクス・アウレリウスの『自省録』
の中から抜粋して書かせて頂きました。
 岩波文庫のマルクス・アウレリウスの『自省録』は、医師としてハンセン病の患者さんのために
身を投じ、妻として母として尊い生き方をされた、神谷美恵子さんが翻訳されたものです。
多忙を極める中で、自らが感銘を受けたこの書を、後に生きる私たちのために翻訳して下さったと
思うと、この小さな本もまた何にも勝る宝物に思えます。
 私たちは、『本』というものを通じて、優れた先人の魂に出会う事ができるのだということを、
あらためて、若い人たちに伝えたいと思います。                  
                                    田井順子

Φ〜菩提樹の下で〜」上演パンフレット記事

〜ごあいさつ〜
〜不思議な体験『チェーホフとの対話』〜