〜劇中に出てくる本について〜
私の作品の中には、必ず本が出てきますが、今回の 『 あれかとこれか 』 のなかにも、やはり
≪ 本 ≫が2冊でてきます。
その中の1冊は、
≪ シャボン玉の図像学 ≫ 未来社刊 森洋子著
あれかが劇中読んでいる詩は、その本の中に出てくる、著者自身の翻訳による、17世紀の
詩人アドリアーン・ポイルテルスの寓意詩、
「美は移ろい易いもの」 = 「現れては消える」
のなかの一節です。
この≪シャボン玉の図像学≫}という美しい本に出会ったのは偶然だったのですが、この本を
本屋さんで見つけた時、本当に小躍りしたいくらい嬉しくなりました。
『 あれかとこれか 』という作品を書こうと考えたとき、シャボン玉の構想がまず浮かび、作品を
書いていきました。そんな中でこの本に出会い、シャボン玉への思いをより深いものにして行く
ことができました。そして、ポイルテルスの詩を是非作品の中に書き入れたいと考え、森洋子先生
にお願いしたところ、快くご承諾して下さいました。
森洋子先生と出版社の未来社に、心より感謝しております。そして、シャボン玉の絵画史として、
また思想史として、見て面白く、読んで深いこの本を是非皆様にもお薦めしたいです。
もう1冊は、
≪ 自省録 ーマルクス・アウレリウスー ≫ 岩波文庫
この本は、『 光と影〜木もれ陽の下で〜 』にも出てきた本ですが、今回は ≪ 自省録 ≫に触れ
るのではなく、文庫本という、本当に手軽で手に入れやすい本の形態が、どのような思いから生ま
れたのかあまり知られていないのではないかという思いがあり、岩波文庫の巻末に必ず書かれて
いる
≪ 読書子に寄す ー 岩波文庫発刊に際して ー ≫
という、創始者の岩波茂男さんの文章を、一部割愛させて頂く中で、引用させて頂きました。
これからの時代を担う若い人たに、是非、知ってもらいたいと思いました。
そして、この文章の中にも書かれていますが、生命ある不朽の書に、若い人たちが出会ってくれ
ることを、切に願っています。
田井順子
〜あれかとこれかのこと〜
21世紀の幕が開き、噂されていたクローン人間の出現が、ただの噂ではなくなろうとして
いる今、空恐ろしさを覚えるとともに、私たち一人一人が、急激な科学技術の発達に振り回
されているだけでなく、人間の進歩とは一体何なのかを、自分の問題として考えてみる必要
に迫られているのではないでしょうか。
≪ 一体進歩というのはなんであろうか。発展というのは何であろうか。
失われるものがすべて不要であり、時代遅れのものであったのだろうか。
進歩に対する迷信が退歩しつつあるものを、進歩と誤解し、時にはそれが
人間だけでなく、生きとし生けるものを絶滅にさえ向かわせつつあるのでは
ないかと思うことがある。 ≫ 宮本常一著『民俗学の旅』より
この本が書かれたのは1978年のこと。それから23年の間に、危機的状況は、予想を
遥かに越えた猛スピードで、我々に迫って来ています。
経済効率優先で、利潤追求に突き進んできた結果は、私たち人間が命を繋いでいく上で
一番大切な母親の母乳に、高濃度のダイオキシンが検出されているということ一つをとって
も、我々が明らかに、あれかこれかの選択を誤ってきたことは確かです。
我々の祖先が残してくれた諺に
≪ 塵も積もれば山となる ≫
という言葉がありますが、この諺は、わずかなものでも積み重なると高大なものになるという
意味で解釈され、この場合の山とは、価値あるもの、美しい山のイメージだったと思うのです
が、21世紀の今、この諺から浮かんでくる山とはどんな山なのでしょうか?
その山が、今後、今よりももっと恐ろしいものになっていくか、美しさを取り戻すことができるか
は、私たち一人一人の小さな ≪ あれか これか ≫ の選択にかかっています。
全ての人が、あきらめることなく、孤立してしまうことなく、命の輪で結ばれていることを感じな
がら、自分自身の可能性を信じて、人生の主役として輝いて生きて欲しいと、祈るような思い
で、≪ あれかとこれか ≫を書きました。
私たちも、演劇活動を続けていくことは、本当に大変な現状ですが、観客の皆様に励まして
頂きながら、あきらめずに続けて行きたいと思っています。
舞台と観客席が、一つの輪で結ばれることを願いつつ。
田井順子
2001年3月16日(金) 19時
17日(土) 14時/19時
18日(日) 14時
うりんこ劇場
白い服の少女
向 あれか(高校3年生)
向 これか(高校3年生)
向 史郎 (父・カメラマン)
吉本 由利
易者の老人
若い娘たちの歌声
あれかとこれか。二人は双子の高校3年生。ジャーナリストであった母は他界し、今は、
カメラマンである父と3人で暮らしている。
ある日、二人は旅行先で乗った船でひとりの少女の身投げに遭遇する。この事をきっ
かけに二人は、“自分が見ていることと、自分に見えているもの”について考え始める。
あれかは、追い立ててくる時間とのなかで、もう少しゆっくり考えたいと、学校に行かな
い日が続く。そんなあれかを見守る父とこれか・・・。
そんな中で、父や、演劇部の顧問の吉本先生や、偶然道で出会った易者の老人の
言葉が種となり、二人のなかで・・・。
永井優次
諸橋忠司
安藤昇益
細川ひろめ(マナコ・プロジェクト)
渋谷けさを 中島由紀子 石垣帆乃香
OMOTO
パオ カンパニー
中島由紀子(プロジェクト・ナビ)
石垣帆乃香
緒方綾
田井順三
中島由紀子(プロジェクト・ナビ)
永井優次
プロジェクト・ナビの女優陣
舞台美術・監督
照 明
照明オペ
音 響
衣 裳
宣伝美術
企画制作