～『灰色のノートとひとつのりんご』企画実現のこと～

　毎回のこと（といっても、まだ、たった３回きりなのですが）次の公演に向けて、何を書くかと
いうことに悩みます。書き手としての能力の無さももちろんですが、何せ、構成員が３人だけ
という、極小劇団なのですから尚更です。
　そんな私たちの劇団に、この春、高校を卒業したばかりの１８歳の女の子、緒方綾が加わ
りました。演劇に真剣に取り組む彼女の姿勢は、私たちを大きく刺激しました。彼女の純な姿
をそのまま舞台にのせたいという思いが湧きました。
　そして、相次いで１７歳の少年が引き起こしてしまった凶悪な殺人事件。今回は、若者の
心模様を書きたいと思いました。ところが、我が劇団には若い男優が一人もいないのです・・・。
　私たちの人探しが始まりました。金山駅には、ストリート・ライヴをやっている若者たちがたく
さんいると聞いていた私たちは、金山駅に向かいました。そして、大平邦博君と谷川充宏君
に出会ったのです。彼らが一生懸命歌っている歌声を聞いた時、彼らならきっと私たちと一
緒の思いで舞台に立ってくれるに違いないという、私たちの直感でした。
　私たちの直感は見事、的中していたと思っています。出会いからわずか３ヶ月足らず、芝居
の稽古に入ってからは、２ヶ月にもならないのが信じられないくらいの親しみを彼らに感じてい
ます。稽古場には『りんご塾』さながらの、温かい空気が漂っていました。最初の読み合わせ
の時には、大丈夫だろうかと思う瞬間がありましたが、台本に向かう中で、どんどん良くなって
いきました。心を通過しないことには身動きできないというのが、短所でもあり、彼らの最大の
長所なのです。演劇に初挑戦の彼らが、舞台で、どこまで役を演じきってくれるか、見守りたい
と思っています。
　それから、今回の公演には、もう一人初舞台を踏む人がいます。毎公演、舞台美術と舞台
監督をしてくれている、チョーさんこと永井優次さんです。ジャックさんという難しい役を引き受
けてくださり、自宅近くの公園で自主練習をし、勝君や耕一君の役作りにも、沢山のアドバイス
をしてくれました。観に来て下さった人たちの記憶に、いつまでも残るジャックさんになることと
思います。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田井順子

　木立ちに囲まれた公園のベンチに、ジャックさんと呼ばれるホームレスの男が
いつも座っていた。その男は落ちている木の葉を拾ってはポケットに入れ、道
行く人たちに手渡していた。その公園に面した古いアパートに「りんご塾」と書か
れた、手作りの小さな看板が取り付けられている一室がある。その部屋の住人
は、かつて集団就職で東北から都会に働きに出てきたという、西山五郎（51歳）。
塾とはいえ、そこは進学塾でも、一般の学習塾でもないようだ。彼の所に、生き
悩む若者がひとり又ひとりと訪れて、塾に置かれた一冊のノートに、自分の思い
を書き記し、五郎と会話していく中で・・・。
　そして、落ち葉を渡し続けるジャックさんとは・・・・・・・？

　save free（大平邦博・谷川充宏）から一言

　僕らは毎週金曜日にストリートライヴをやってる者です。僕らは役者はもちろんやったことが
ないし、今回初めてゼロから勉強させていただきました。今回、僕らがこの舞台に参加するに
至ったのは、田井さん夫妻が僕たちのストリートライヴを見に来てくれて、その次の週にも僕ら
の演奏を聞きに来てくれて、田井さん夫妻の熱心な説得を受け、今回、舞台に初挑戦する
ことになりました。なかなか人と触れ合うことが出来にくくなっている今の時代に、この舞台を通
していろんな人たちと触れ合うことが出来たことに感謝しています。

　歌に関しての思い　～代表として大平より～

　僕らが音楽に興味を持ったのは、小学校の５，６年生に受け持ってもらった先生の影響な
んです。その先生に教えてもらった歌っていうのが、一般的な合唱曲ではなく、先生が実際
北海道の知床半島を旅して、そこで出会った人に教えてもらった曲で、すごく素朴で心にグッ
とくるんです。この歌をクラスのみんなで歌ったテープを、中学のときに聴き返してみて、その
時に涙をポロポロ流しちゃって、こんな歌を作ることができたらいいなぁーって思い、歌で人を
感動させることができたらいいなと思うようになりました。
　そんな思いで詞を書き、曲を作り、街頭に立って歌っています。