〜作品を書くにあたって〜

 【 大空詩人のこと 】
 若い時というのは、永久の別れなどというものには思いも至らず、何時までも出会いの時が続く
と思っていがちです・・・・・。私もご多分に漏れず、そんな風に思っていました。
 大空詩人との出会いから、長い長い時間が経ち、三十年が経ってしまいました。
 私の手元に残されたのは、大空詩人が愛用していたマンドリンと、大空詩人が自らガリ版で印刷
した自叙伝が二冊と、単行本になった自叙伝が二冊、それに頂いたお手紙が数通・・・。そして、
「いつか、こんな話を書いてくれるといいな・・・・・」と言って私に託された、サンタクロースのその後
の話・・・。
 その約束をいつか本当に果たさなければと、思っていたのですが、その時は偶然と言うか、必然
というか、やってきたのです。それは、今回、大空詩人を演じて下さっている、永井優次さん(チョー
さん)との出会いでした。
 ある時、喫茶店で話しをしていた時、ふと、チョーさんの顔と大空詩人の顔がダブったのです。
似ているのです!チョーさんが大空詩人を演じてくれるなら、書けると思いました。また、今、こんな
時代だからこそ、大空詩人のことを書きたいと思ったのです・・・・・・・。

 【 畠山重篤さんのこと 】
 劇中では、畠野重明になっていますが、畠野のモデルは、宮城県の気仙沼で山に木を植える運
動を始められた、牡蠣(かき)や帆立貝の養殖をされている、〔 牡蠣の森を慕う会 〕代表の畠山
重篤さんです。畠山さんは、
   ≪ 『森は海の恋人』 (北斗出版)
      『リアスの海辺から』 (文芸春秋)
      『漁師さんの森づくり』 (講談社)  ≫
の著者で、子供たちを海に招いての体験学習も長年にわたって続けておられ、本を読ませて頂い
てから、ずっとお会いしたいと思っていました・・・。大空詩人の気仙沼図書館にある詩碑と、畠山
さんとの関係性を検証してみたいと思っていたのです。そして、この『冬の旅』を手がけるにあたっ
て、6月に気仙沼に取材旅行に行き、初めてお会いする事ができ、今回の『冬の旅』の畠野重明
という人物が生まれました。
 畠野が話す、森や海の話は、畠山さんの書かれた本の中から引用させて頂きました。
 畠山重篤さんの本を、最初、図書館で借りてきて読んだのですが 、その本はたくさんの人に触
れられたようで、手垢で薄汚れていました。何だか嬉しくなりました・・・・・。

 【 橋本知久君のこと 】
 今回の劇中、頭の部分、『お砂糖の歌』の話の後流れる曲は、橋本知久君の作曲した『RASEN』
という曲です。橋本知久君との出会いは、劇団旗揚げの『階段の上の少年』の時で、雑誌に小さ
く掲載されていた題名に惹かれて、電話をくれました。当時、彼はまだ17歳の少年でした。
 少年、少女に向けてという思いが強かっただけに、初めてあった知久君からの一本の電話は、
確かな手応えを感じさせ、私たちを勇気づけてくれるものでした・・・・・。
 そして今、彼は20歳になり、作曲の勉強をしています。今回、我々が『冬の旅ーにゃあやん、あ
の歌うたってよー』という芝居をするという情報を知り、題名からのイメージを曲にしてみたからとい
う連絡をくれたのです。残念ながら、彼がイメージしていたものとは、全く違ったものだったので、今
回の芝居では使わせてもらうことができませんでしたが、その時偶然持ってきていた、『RASEN』と
いう曲を聴かせてもらったとき、この曲は使いたいと思いました。劇中に登場する祐輔も、知久君
の同じ20歳、等身大の若者の感覚を舞台に生かしたいと思ったのです。知久君に心から感謝し、
これからの活躍を楽しみにしています。

 【 南谷博一先生のこと 】
 今回の劇中、祐輔が大空詩人の本を黙読している時、バックで流れる『アベマリア』を演奏して
下さったのは、昭和区川名本町6丁目38番地にある、<マンドリンの音の博物館>館長の南谷
博一先生です。ほんとうに必然的としか言い様のないような出会いの中で、貴重な演奏を頂くこと
ができました。
 マンドリン独奏の『アベマリア』を必死で探してくれていた、音響の細川ひろめさんが、ふと、<マン
ドリン音の博物館>という建物を見かけたことがある事を思い出し、博物館にお電話し、ほとんど強
硬手段ともいえる熱意で、お忙しい南谷先生の生演奏を録音させて頂き、持ってきてくれたのです。
 驚かされたのはそれだけではなく、南谷先生は大空詩人のことをご存知で、先生のマンドリン関係
の資料の中に、大空詩人のこともファイルして持っておられたのです。こんなに近い所に大空詩人
のことを知っていらっしゃる方がいるとは、本当に驚くというより、不思議な気さえしています・・・・・。
 お忙しい時間の中で、貴重な演奏をして下さった南谷博一先生に、心から感謝申し上げます。
    <マンドリン音の博物館>へのお問い合わせは
                           TEL (052) 751−1678 まで
   とても素敵な博物館です。一度足を運ばれてみてはいかがですか・・・?

 最後になりましたが、ひとりの精神科医と傷ついた心を持った若者が旅に出るという今回の芝居の
組み立てを考えるにあたって、精神療法に関する本は何冊か読みましたが、なかなかに微妙な、
精神領域のことで、そのことにあまり囚われてしまうと、今回の芝居は書けなくなってしまうと思いまし
た。ただ、様々な状況の中で、精神的に苦しんでいる人々のいることの痛みだけを感じながら書こう
と思ったのです。それでも、多少の不安は拭えずにいたのですが、私たちが日頃いろいろとアドバイ
スを頂き、お世話になっている、名演会館の島津秀雄さんのご紹介で、名古屋心理センター人間
成長総合研究所の心理カウンセラー、間瀬晃さんとお知り合いになり、私たちの芝居の稽古に、お
忙しい中、2度も足を運んで下さいました。精神療法の現場での約束事などいろいろと教えて頂き、
そして、「そのことを考えると、この話の展開は、精神療法の領域を逸脱していると言えるかもしれま
せんが、これは、作者の詩的世界だと感じましたから、そんなことはあまり気にする必要はないと思い
ます。」と言って下さったのです。胸のつかえが取れた気がしました。精一杯の思いで創造していけば
いい、そう思えたのです。 心から感謝しております。本当にありがとうございました。

                                 田井順子






































 「にゃぁやん
 「なーに?
 「あの歌うたってよ
 「あの歌って、何の歌?
 「おさとうの歌
 「お砂糖の歌?
 「そう
  この間、にゃあやんが僕(ぼちゅ)にうたってくれた、おさとうの歌
 「にゃあやん、お砂糖の歌なんてうたわないよ
 「うたってくれたよ
 「お砂糖の歌を?
 「うん
 「・・・・・お砂糖の歌・・・・・・・・・????????

 この会話は、今から27年も昔の、私と甥っ子のある日の会話です。それから、「お砂糖の歌」
が何の歌のことだったかが分かるまでに、何年もの月日がかかりました。そして、私に"いのち”の
輝きを教えてくれた小さな甥っ子も、21世紀始まりの今年、29歳になり、結婚を考える歳にな
りました。やがて彼も人の子の親になるでしょう。随分長い時間が過ぎてしまいましたが、あの時
うたってやれなかった「お砂糖の歌」を縦糸にして、東北・宮城県の気仙沼を舞台に、作品を書
いてみようと思いました。
 何故、気仙沼なのか。それは、これまた30年も昔、私が甥っ子に歌をうたってやっていた頃
よりも、もっと若かった頃、東京で一人の老人と出会いました。
 その人は、大空詩人といい、マンドリンを奏でながら東京の街を歩き続けていました。私も一度
だけ、マンドリンに合わせて笛を吹きながら一緒に歩いたことがありました。私たちはまるで、おじ
いちゃんと孫のようでした。その大空詩人の詩碑が気仙沼図書館にあるのです。石碑には、大空
詩人の字で、

   ≪ 図書館へ行く道をきいている
     あのおじさんは きっと 好い人にちがいない!
              気仙沼と全世界の図書館様へ  ≫

と刻まれていました。そして、気仙沼には、私が以前からどうしてもお会いしたいと思っていた、
一人の漁師さんがいたのです。
 その漁師さんと大空詩人を横糸に書いてみようと思ったのです。
                                   田井順子

中島由紀子(プロジェクト・ナビ)
緒方綾
石垣帆乃香
永井優次
千葉ペイトン(プロジェクト・ナビ)
田井順三

小川直子
木本祐輔
若い頃の直子
大空詩人
トロフィーモフ
畠野重明

 人間の精神、心についてもっと知りたいと思い、精神科医になった小川直子。
ある日、直子のもとに通ってきている、木本祐輔は、父親の陰の恐ろしい一面を
見てしまったことから、変わってしまった自分の心を打ち明ける・・・。
 そんな祐輔に直子は、医者と患者としてではなく、21世紀を共に生きる、悩める
人間同士として、一緒に気仙沼に行ってみないかと話し始める。
 直子は、気仙沼に特別な思いを抱いていた。以前から、会いに行きたいと思って
いた漁師の畠野重明、彼女が若い頃に出会った大空詩人・・・。その思いとは・・・?
 物語は、現代と過去を錯綜し、直子が今に至るまで、今現在を描いていく。
チェーホフの『桜の園』。そこに登場する、青年トロフィーモフとは?
お砂糖の歌とは・・・・・・・?

舞台美術・監督
照   明
音   響
宣伝美術
印刷協力
企画制作

永井優次
安藤昇益
細川ひろめ(マナコ・プロジェクト)
OMOTO
木野瀬印刷(株)
パオ カンパニー

2001年12月14日(金) 19:30
        15日(土) 14:00/19:00
        15日(日) 14:00

うりんこ劇場