本日は PAO COMPANY 第12回公演「プアメードの血」にご来場いただきありがとうございます。 
今回もまた、本当にたくさんの方々に支えて頂きながら、幕を開けることができました。

 
 私たち人間の脳は、あたかもコンピューターのように、生まれた瞬間から、現在では、生まれる以前、
母親の胎内にいる間から、様々な情報を集積し、無意識のうちに記憶し続けているといわれていますから、
我々ひとり一人の脳の中には、常に、莫大な量の情報が眠っているということになります。
 そして、その情報は、無意識の内に整理され、その人の行動、生き方を決定づけているのです。
ですから、現在のように、毎日毎日、凄惨な殺人事件や、人としての倫理に反する行為ばかりを目撃して
いると、私たちの脳は、それらを総合的に判断し、とんでもない犯罪行為、負の連鎖を引き起こしかねません。   
 
このような時代にあっても、人間に対する信頼を失わず、この世界を美しいものにしたいと願う心《想像力》
を失わずにいられる為には、何が必要なのでしょうか?
 この世界を美しいものに変えたいと願い、行動している人間がいるという事を知った時、私たちは、自分の
内にある大切なものを見失わずに生きて行く事が出来るのだと思うのです。 
そんなことを考えていたら、私の脳から、高校生の時に聞いたプアメードの話と、そしてまた、その頃に読んで、
なんだかチンプンカンプンだった、ニーチェの『ツァラツストラはかく語りき』と、ゲーテの『魔法使いと弟子』
という詩を使って一本芝居を書いてみろという、なんとも暗号めいた指令が来たのです。とんでもないことに
なってしまったと思っても、逃げ出すわけにはいきません。迷い道に入り込んでしまいそうになりながら、
四苦八苦しながら書いたのが、今回の芝居『プアメードの血』です。
 どんな情報を集めるかは、我々にとって、とても重大な問題だと思います。
 たとえその時、理解できなかったことでも、私たちの脳は、無意識のうちに考え続けているのですから・・・。
 
ゲーテが興味深いことを言っています。
    「世の中の人たちは、いつも独創的であるということを気にするが、
    それはどういう意味だろう。生まれるとすぐに世界は影響し始め、
    そしてそれは死ぬまで続く。一体、エネルギーと力と意志と以外に
    自分だけのものがあるだろうか。
    もし私のなかから、偉大な先駆者や同時代の人に影響を受けた事を
    一つ一つ取り除いてしまったとしたら、私だけのものとして残るのは、
    ほんのわずかしかない」と。
 
想像する力も創造する力も自分ひとりの力で生まれて来るものではないのです。
共感する思いこそが大切なのだと思います。
 今回の舞台には、巨樹が重要な意味をもって存在しているのですが、眼には見えません。
劇が進行していく中で、演じ手の思いと、舞台を観て下さっている方々の思いが共感しあい、
芝居が終わるころには、本当にそこに巨樹が立っていてくれることを願っています。
                               
                                    田井順子










「プアメードの血」上演パンフレット記事

〜ごあいさつ〜
〜世界を美しいものに変える想像力はどこから生まれるか?〜