本日は 東文化小劇場芸術公演・PAO COMPANY 第11回公演「一本のロープと三人の道化
〜白い花よ、色とりどりの花々よ〜」にご来場頂き、誠にありがとうございます。
 今回もまた、本当にたくさんの方々に支えて頂きながら、幕を開けることができました。

 
 『 すべての道はローマに通じる 』という言葉に出会ったのは、いつの頃だったか、何からその言葉を
知ることになったのかは、よく覚えていませんが、まだ小学生の頃だったように思います。
 何か、とても、確たる真理を含んでその言葉があるような気がしたのですが、果たして子どもにとっては、
まったく理屈に合わない話で、その言葉を知ってからの幾日か、学校の行き帰りの道すがら、一生懸命
考えてはみましたが、今、自分が歩いているこの道が、遠い国のローマに通じているとは、到底思えない
ことで、そのうち疑問を残したまま、忘れてしまいました。

 ところが、ここ十年の間に、『すべての道はローマに通じる』という言葉が、再び顔を出し始め、道草ばかり
して歩んできた私の道とも、確かに繋がっているようなのです。
 そしてまた、ローマに通じるという言葉には、二通りの道があるような気がしてきました。
一つは、 ≪生を享けた者の中でもっとも高貴な魂≫ と称されるローマの賢帝マルクス・アウレリウスの『自省録』
に記された、人間が到達すべき最高の哲学的境地へと続く道。
 そしてもう一つは、人間の限度を知らぬ欲望が大ローマ帝国を滅ぼしたように、破滅へと突き進んでいく道。
その二つの道が暗示されているような気がしました。
 『すべての道はローマに通じる』 と書き記した、十七世紀のフランスの詩人、ラ・フォンテーヌの寓話を読んで
みると、やはり、ラ・フォンテーヌもそう考えてこの言葉を書き記していることが分かります。
 私は幼少期、母の読み聞かせで、イソップやトルストイの寓話にふれて育ちました。
そして、大人たちを観察してみると、寓話の世界がそのまま具現化されていて、なんという愚かしいことを、
大人たちはやっているのだろうと、驚くことがしばしばでした。
 ラ・フォンテーヌの寓話を読んで、改めて、いかに自分がイソップやトルストイの寓話の影響を受け、また
それらの考えに支えられて育って来たのかということを、強く感じました。

 私たちは、日々、色んな事に傷つき悩んだり苦しんだりしながら、小さな点を刻んでいます。
 そして、それらの点の一つひとつが結びついて、明日への美しい道筋を創っていくためには、それらの点を
美しく繋げる役割を果たすものとの出会いが、どうしても必要なのだと思うのです。
 私たちの創る舞台が、明日への美しい道筋を創って行こうとしている人たちへの応援歌になれることを、
心から願っています。

 dj klock 亮に、私が手渡した最後の本になってしまったのは、岩波文庫のマルクス・アウレリウスの『 自省録 』で、
彼が亡くなる三年前のことでした。
 「 叔母ちゃん、僕が考え続けてきた想いが『 自省録 』と繋がったよ。 」
と何時か話してくれることを願っていたのです・・・・・・・・・・・・・。

 この舞台を、今回の作品を書くきっかけになった、十七才で逝ってしまった知人の息子、輝(ひかる)君と、
愛する甥dj klock亮に捧げます。

 今回の公演のサブタイトル 〜 白い花よ、色とりどりの花々よ 〜 は、児童文学者・斎藤隆介さんの『白い花』に
因んでつけました。 今から三十年前、斎藤さんが亡くなる四年程前に、お目にかかって親しくお話しさせて頂いた時、
斎藤さんは、「 今、子どもたちが、悲鳴をあげている。それは、僕たちの力が弱いからだ・・・・。 」と、まるで少年
のように、時代を憂いていらっしゃった顔が忘れられないのです・・・・・・・・。
 劇中、フラジルが話す雲雀の話は、斎藤さんの『 ひばりの矢 』によります。
 ヴェルリが話す雲雀の話は、ラ・フォンテーヌの『 ひばりとその子どもたちと畠の持ち主 』からの抜粋です。

 最後になってしまいましたが、 〜 白い花よ、色とりどりの花々よ 〜というサブタイトルへの私の思いに賛同し、
併設企画に参加して下さった、中田さつ子さん、三井喜代さん、松井恭子さんに心から感謝しております。

                                     田井順子


  ◆dj klock 『san』より 「niji」 「flute sings」「theme」
  ◆cacoy 『human is music』より 「harmonies」
  ※ TOWER RECORDにて発売されております。 店頭にない場合は、お取り寄せが可能です。   

「一本のロープと三人の道化」上演パンフレット記事

〜ごあいさつ〜
―― 劇中で語られる映画の紹介――
〜『すべての道はローマに通じる』のか?〜
『ピエロの赤い鼻 -Effroyables Jardins-』 2003年フランス
監督:ジャン・ベッケル 原作 :ミッシェル・カン
CAST:ジャック・ヴィユレ アンドレ・デリュソリエ ティエリー・レルミット ブノワ・マジメル

ドイツ占領下のフランスで捕虜になったパパとその仲間たち。極限状態の中で彼らを救ったのは、あのピエロだった・・・。























―― 劇中で使用した、dj klock の音楽 ――